新型コロナウィルス感染者 東京都はこれから指数関数的に増加するか

今年に入ってから猛威を振るう新型コロナウィルス(COVID-19)の勢いは留まる所を知りません。筆者が住むシカゴでも、バーとレストランの閉鎖、小中高大学の閉鎖、自宅待機要請(stay-at-home-order)、緊急性のない職種の在宅勤務要請など、この1か月間で生活面に大きな変化がありました。 このような状況の中、「いつまで続くのだろうか?早く収まって欲しい。」と感じている毎日です。Chicago Tribuneの4月1日の記事によると、シカゴのあるイリノイ州においてはおおよそ4月中旬から5月下旬が感染者数のピークになるという予測が出ています。それに合わせてか、現時点での在宅要請は4月30日までとなっています。

www.chicagotribune.com

このような感染症の怖い所は、感染者数が「指数関数的」に増加するところです。メディアでも、「感染者数が何日毎に倍増」という表現を目にします。では、東京や日本は他の中国や欧米の国々で起きた指数関数的な感染者数増加を回避することが出来るのでしょうか。

「指数関数的」増加の考察

以下のグラフは、

  • 東京(日本)*1
  • シカゴ(米国)*2
  • ニューヨーク(米国)*3
  • 湖北省 (中国)*4

の4つの都市・地域における新型コロナウィルス感染者数の「指数関数的」な増加の変遷を表しています。横軸に総感染者数、縦軸に1日当たりの新規感染者数*5を取り、両軸とも対数表示をしています(下記に補足あり)。ウィルス感染者数が指数関数的に増加している場合、このグラフ上の同一都市の点は理論上、一直線に並ぶはずです。そして、その直線から外れることは指数関数的な増加から脱したことを意味します。

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COVID-19感染者数 指数関数的増加の推移

以下、このグラフから見えることを何点か記しておきます。

[1] 湖北省の感染拡大は収まった

あくまでもデータ上の話ですが、爆発的に増加していった新規感染者数はピークを迎えた後、日に日に減少していきました。3月19日以降は、週に1件程度になっています。指数関数的な増加が収まる過程を可視化するためにこのグラフに湖北省を入れました。

[2] 自宅待機要請は有効か?

ニューヨークとシカゴを比較すると、総感染者数100~500人辺りまでは同じような増加の仕方をしていました。ただ、時期的にはニューヨークの方が4~5日先行していました。そして、3月20日ニューヨーク州とシカゴがあるイリノイ州は同日に自宅待機要請を出しました。内容は両州ともほぼ同じで、

  • 指定業種以外の業務は停止(ないし在宅勤務)
  • 対面を要する集会・イベントの自粛
  • 不要不急の外出自粛
  • 他人と約2メートルの間隔を取ることの徹底

などです。シカゴ市ではこれに加えて、娯楽で人が集まりやすい公園も閉鎖されました。

要請が出た3月20日時点でのニューヨークでの総感染者数は約5700人(新規で約1700人)、シカゴは総感染者数が約440人(新規で約130人)でした。その後の動きを見ると、シカゴはニューヨークが辿ってきた推移よりも緩やかになっているのが見て取れます。またニューヨークもこれまでの増加の仕方からは落ち着いてきたように見えます。この自宅待機要請の有効性の度合いはまだ明確にはわからないですが、生活していても人の動きが減っているのは実感しますし、一定の効果を感じています。

[3] 東京の感染者数は妙に少ない?

これは、国内外のメディアで良く報じられていますが、実際はどうなのでしょうか。シカゴとニューヨークと比較すると、両都市とも総感染者数が20人を超えた辺りから指数関数的増加の直線に乗っていますが、東京は200人になるまで要領の得ない動きをしているように見えます。これは初期段階で感染拡大を抑えられたことの証左なのかもしれませんが、3月24日に東京五輪延期が発表されてからは翌日の小池都知事週末外出自粛要請も空しく、次第に日当たり感染者も増加し、指数関数的な増加の直線に近づいています。

[4] 今の東京は2週間前にニューヨークか?

また別の記事で「今の日本は2週間前のニューヨークだ」という記事が出ていましたが、これについてはどうでしょうか。4月3日時点までの動きを見ると、東京はニューヨークやシカゴのような増加率には達していないようですが、日当たりの感染者数で言うと2週間前のシカゴと同水準と言って良いと思います。シカゴではこのタイミングで自宅待機要請が出されましたので、小池都知事には都民への外出自粛要請をより一層発信して頂きたい思いです。

補足

参考資料

こちらのYouTubeチャンネルでは、世界の各国の感染者数増加の変遷を一つのグラフにプロットし、「指数関数的」な増加を脱した国を考察しています。

www.youtube.com

総感染者数と1日当たり感染者数の対数を取ることに関するメモ

感染症の流行過程を表現する式として、SIRモデルというものがあるようですが、ここではこちらの記事同様、以下の単純な式で考えてみたいと思います。


\Delta N/ \Delta t = aN … (1)

ここでNは総感染者数、tは時間、aは感染者数の増加率を指します。仮に\Delta t(時間変化)を1日、増加率(a)を0.5とすると、総感染者数(N)が100人のときその日の新規感染者数(\Delta N)は50人、総感染者数が1000人のときは新規感染者数が500人とまります。これからも、感染者数が爆発的(指数関数的)に増加していることが伺えると思います。

式(1)の微分方程式を解くと、以下の式が得られます。

N = N_o e^{a t} ...(2)N_oは最初の感染者が発生した時点での感染者数)

つまり、総感染者数(N)はN_oを初期値として自然対数の底eat乗で表されることを示しています。

さて、上記グラフの横軸は総感染者数の対数(\log N)でした。

そして(1)により縦軸の新規感染者数の対数は

 \log (\Delta N/ \Delta t) = \log a + \log N

つまり、(1)の式の下で感染が拡大した場合、\log N \log (\Delta N/ \Delta t)は線形の関係にあることが分かります。

*1:東京都 新型コロナウイルス陽性患者発表詳細

*2:City of Chicago Latest Data

*3:2020 coronavirus pandemic in New York City

*4:Novel Corona Virus 2019 Dataset. 1月22日以降のデータのため、その時点で総感染者数が900人だったと仮定しています。

*5:日によって測定数のバラツキがあるため、毎日感染者が出るようになってからは各都市とも過去7日間の平均を取っています